買い叩かれる労働力と尊厳「オーロラの涙」


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スコットランドの巨大な物流センターで働くポルトガル人移民のオーロラ。
スキャナーを片手に通路を歩き回り、注文の商品を取り出すピッカーの仕事を終えると、移民労働者たちのシェアハウスに帰る生活を送っている。
同僚たちとの会話は休憩中のわずかな時間だけで、シェアハウスの住人同士の関係も表面的なものにすぎない。
仕事以外の時間はずっとスマホの画面を眺めているオーロラだったが、ある日、不注意でスマホを壊してしまったことがきっかけで、オーロラの日常は少しずつ変わっていく。

めちゃくちゃしんどかった。
「ラストマイル」がぬるま湯に思えるくらいシビア。
そういえば「ブゴニア」のテディも物流倉庫のピッカーらしき仕事をしていましたね……。

 

【ネタバレあり!】



オーロラはフルタイムで働いているのにシェアハウスに住まざるを得ないほどの収入しかなく、些細なアクシデントで日々の支払いが滞ってしまう。
スマホの修理代を支払ったことで、住人たちが当番制で払っている電気代の支払いが遅れシェアハウスの電気が止められてしまうシーン、シャワーの途中だったオーロラがバスタオルに包まったまま息をひそめてやりすごそうとする姿に涙が出た。

毎日勤勉に働いているのに生活は不安定で、スマホの修理という些細なアクシデントが発生しただけで簡単に行き詰まってしまう。
シェアハウスの住人のシャンプーや買い置きの食品を盗まざるを得ないような生活はオーロラの心を蝕み、やがて注文品をすり替えるという小さな悪事も働くようになる。
このあたりの描写が、労働して自活するというのは人間の尊厳に直結していて、労働力を買い叩くということは尊厳を買い叩くという行為なんだなということを感じた。

 

同性カップルの過酷な現実「これからの私たち」


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同性カップルであるパットとアンジーは、ふたりで立ち上げた事業も成功し、公私ともに信頼しあい穏やかな生活を送っていた。
しかし、中秋節の直後にパットが急死してしまう。
パットの親族とも親しくつきあっていたアンジーだったが、葬儀の方法を巡って意見が対立し、険悪な関係に陥ってしまう。

怒りと悲しみで全部の臓器がねじ切れそうになった。
特に、パットの生前はアンジーに(表面上は)好意的だったパットの親族たちが次々と掌を返していく様子はフィクションだとわかっていても心が冷える。


【ネタバレあり!】

 



親族中で一番パットとアンジーを慕っていた甥っ子でさえ、自分に子どもが生まれることがわかると、パットとアンジーが支えあって成功した成果であるマンションからアンジーを追い出すことに反対しなくなる。

法律の壁によりどんどんアンジーが追い詰められていくところといい、最終シーンの甥っ子の赤ん坊といい、現在の婚姻システムが父親と子の血縁を証明するための制度であること、資産を血族に継承していくイエ制度を強固にする制度であることであり、人と人が信頼しあって相互扶助のパートナーシップを結ぶことを支援するものではないということがよくわかる。

パットの親族たちの困窮っぷりと人間性の浅ましさに比べて、パットとアンジーの友人たちとのコミュニティが自助努力と相互扶助で成り立っているところが対照的であり、最後にアンジーが精神的にだけでも折り合いをつけられたのは本当に救われた気分になった。
あと遺言状は本当に大事だな……と痛感したので、早く準備するに越したことはないと思った。

 

 

「レンタル・ファミリー」


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アメリカ人俳優のフィリップは、細々と俳優の仕事を続けながら東京で暮らしていた。ある日、「家族のような役割を演じる」レンタル・ファミリー会社を経営する多田から仕事を依頼されたフィリップは、他人の人生に関わることに戸惑いつつ、レンタルファミリーの仕事をこなしていく。

ブレンダン・フレイザーや子役の俳優さんの演技はとてもよかったんだけど、時間が経てば経つほど色々引っかかる脚本だな~という感じ。

 

【ネタバレあり!】

 

 


冒頭の、国外に移住する同性カップルの偽装結婚というフィリップの初仕事エピソードはとてもよかったんだけど、レンタル・ファミリーの性質上、基本的に「依頼人に近しい人を騙す」という構図になってしまうため、なんとなく後味が悪いものが多くて、そりゃ愛子さんも辞めたくなるわと思った。

あと、喜久雄さんに、本当は自分が記者ではなく役者であることを明かさないままだったのはダメじゃない???
そこ隠したまま「友よ……」とか呼びかけてもダメじゃない???

ミアのお母さんもちょっと子どもをバカにしすぎというか、ミアがフィリップに懐こうが嫌おうが正体がバレなかろうが、どっちにしろ娘が傷つくことになるだろうとは考えなかったんか……?と思った。

映像はすごく美しく、海外作品にありがちなトンチキジャパンとは一線を画していたけど、エモさを追求するあまり昭和初期みたいになってたのでやや違和感はあったかな。

 

世話焼きアベンジャーズ「木挽町のあだ討ち」


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時は江戸時代。ある雪の降る夜、木挽町の芝居小屋「森田座」のすぐ近くで、美しい若衆・菊之助が父の仇討ちを見事に成し遂げた。
その事件は多くの人々に目撃され、美談として語られることになる。
1年半後、菊之助の縁者だという侍・総一郎が、仇討ちの顛末を知りたいと森田座を訪れる。
菊之助に関わった人々から事件の経緯を聞くなかで徐々に事実が明らかになり、やがて仇討ちの裏に隠された「秘密」が浮かび上がる。

面白かった~!!
森田座(世話焼き)アベンジャーズがかっこよすぎる!!
特に女形のほたるさん役の高橋和也さんが、菊之助を息子のように大事にする包容力と色気があってすごくよかった。
(日本の映画やドラマをほとんど見ないので、高橋さんが元男闘呼組の高橋さんだと知ってびっくり)

柄本佑さんの飄々とした風貌とキャラが合っていたし、菊之助役の長尾謙杜さんも、そりゃみんな助けてあげたくなるわ~っていう感じの素直さと純真さに溢れていてよいエンタメだった。

原作を読んでいないので、映画版でどこがどう改変されたのかはわからないが、最後のオチはちょっと都合がよすぎるかな~という感じ。

 

 

 

何も噛み合わない格差「ブゴニア」


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製薬会社の女性社長ミシェルはある日二人組の男に誘拐され地下室に監禁される。彼らが、ミシェルが地球を侵略する宇宙人だと信じる陰謀論者であることを知ったミシェルは、二人をなんとか言いくるめて脱出しようと試みるが……。

監督ヨルゴス・ランティモスとプロデューサーアリ・アスターという地獄のタッグ!
8割くらいジェシー・プレモンスとエマ・ストーンの演技力の激突なので非常に満足度が高かったけど、しかしジェシー・プレモンスが怖すぎる。

世界的大企業のCEOであるミシェルと物流倉庫のピッカーであるテディと衣食住生活のすべて、知性や価値観にえげつない格差があるのが視覚化されていて、話し合いとかでどうにかなるような問題じゃない、という絶望感がすごい。
(これがアメリカ国内の分断を表現しているのでは、というレビューがあってなるほどな~!と思った)

 

 

 


【ここからネタバレ】


従弟のダンが素直で優しいことを見抜いて懐柔しにかかるところとか、不凍液を治療薬だと偽ってテディの手で母親の命を奪わせてしまうところとか、陰謀論者のテディと同じくらいミシェルが邪悪なのがバランスとれてて(?)良かった。

実はミシェルは本当に人類に裁きを下す異星人でした、というオチは個人的に好きだけど(アンドロメダ人のファッションがカワイイ)、これ実際に周囲に陰謀論者がいる人にとってはすごい迷惑なんじゃないか?

これを見た日にイスラエルとアメリカ軍によるイラン攻撃があり、フィクションで描かれる絶望より現実のほうがさらにひどい世界になってきたな……と思った。

 

 

きまずさ地獄「シヴァ・ベイビー」


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大学卒業を間近に控えたダニエルは、誰が亡くなったのかも知らされないまま親戚のシヴァ(ユダヤ教の葬式)に参列する。

故人の自宅では、幼なじみで元恋人のマヤがロースクールに合格したことで賞賛される一方、ダニエルは冴えない進路や容姿の変化について親類縁者たちから不躾に詮索され、居心地の悪さを募らせていく。

そんな中、数時間前に会ったばかりのパパ活相手・マックスが、容姿端麗な実業家の妻キムと赤ん坊を連れてシヴァに現れたことで、ダニエルはますます混乱していく。

 

面白いっていうか、いたたまれないわイライラするわで胃がキリキリした。
年配の親類縁者が若い娘に体型だの将来だのパートナーだのにズケズケズケズケ無限にダメ出しをしてくるのって世界共通なんだなあ……。
若者が地元から出て行ってしまう!!とか嘆く前に己の振る舞いを省みてもろて。

そして、娘の黒歴史をエンタメのように衆目の面前で披露する父親、なにがしかの刑罰に処すべき。

 

 

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謎解きというより心理戦「夜鶯 ある洋館での殺人事件」


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1940年代の上海。脚本家の李家輝、元花形女優の蘇夢蝶、落ち目の映画監督やスタントマンらの業界人が富豪の呼びかけでとある洋館に集まっていた。
世間を騒がせた未解決殺人事件を題材にした映画を撮ろうという富豪の計画に一同は困惑するが、その場には本物の殺人犯も同席していた……

一応主人公である李家輝が探偵役のような立ち回りだが、謎解きミステリというより、富と名声(と承認欲求)を得たいと野心を抱く人間の欲望を描いた心理劇って感じで面白かった。

セットの洋館も豪華で見ごたえがあるのだが、肝心の李家輝のキャラがあんまり立っておらず、演じた尹正の魅力だけで押し切っている感じがして謎解きパートは薄味かな~。
童顔尹正の丸メガネは大変よかったです。

殺人犯役の張本煜が一見サイコパスに見えて実は……というギャップを上手いこと演じていてよかった。